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1.線路に落ちたフェンネル

2005年7月1日掲載

平成17年2月17日の夕方、私は横須賀の小学校での講演を終えて、どうにか東横線の大倉山駅にたどり着いたところだった。

いつものように電車を降りた私は、右側に走り去る電車の音を聞きながらホームを歩いた。20メートルほど歩くと改札に降りる階段のはずだった。

盲導犬のフェンネルは停止の点字ブロックの前で止まった。私は点字ブロックの感触を足の裏に感じながら、動きの悪いフェンネルを後ろに従えるような形でなおも歩を進め、段差を確認した。

そして、そのまま階段を降りようとした瞬間、私の身体は宙に投げ出されていた。私はフェンネルもろとも、ホームから転落してしまったのだ。

階段の降り口を示すものと思い込んでいた停止の点字ブロックは、実はホームの端を示すものだったのだ。

ごろごろとした砕石を足の裏に感じた私は、必死の思いでホームを探り当てようと手を伸ばした。

運良くコンクリートの壁のようなものが手に触れた。私はそのコンクリートのへりに手をかけ、渾身の力を込めてホーム上に這い上がった。

乗っていた電車が、急行が通過した直後の各駅停車だったことが幸いしたようだ。

私はどうにか助かったが、フェンネルはまだホームの下なのだ。私は大声で何度も何度も助けを求めた。何の反応も返って来ない。

私は握っていたリードを強く引張って、フェンネルを引っ張り上げようと試みたが、30キロ近い身体がそう簡単に持ち上がるはずがない。

フェンネルは首を締めつけられて、苦しそうな声を上げるだけだった。誰も助けに来てくれない。

気はあせるばかりだ。私はとっさにホームから飛び降りていた。

もちろん、電車の近づく音が聞こえないことを確かめてからの行動だったのだろうが、その辺りは記憶が定かではない。

私は無我夢中でフェンネルを抱きかかえ、ホーム上に持ち上げていた。

再びホームに這い上がった私は、気力と体力を使い果たして、ホームの端にへなへなと座り込んでしまっていたようだ。

プロフィール

写真:涼堂さん

涼堂 文武/りょうどう ふみたけ
1959年 兵庫県姫路市生まれ
横浜国立大学教育学部を卒業後、公立中学校で20年間の教育実践に携わる。
白杖を持って2年間、盲導犬を伴って1年間の教員生活を経て、障害者理解を広く人々に呼びかける必要性を感じ、自らの体験をもとに小中学校での講演、各ホールなどでのコンサート活動などを意欲的に行なっている。
2000年の障害者国体(富山)では、水泳と陸上でそれぞれ銀メダルを獲得し、現在も競技生活を続け、『歌って走って泳げる全盲の作家』を目指している。
2005年6月、「白杖は泣かない」を新風舎から発刊。


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