「ゆうゆうゆう」は、NTTが障がい者の雇用促進を目的に設立した「NTTクラルティ株式会社」によって運営されています。
2013年9月24日掲載
私は、茨城県つくば市にある筑波技術大学に勤務している。
本学は、視覚・聴覚障がい者を対象とする国立大学である。1987年に三年制短期大学として開学し、2005年に四年制大学に改組した。
私は、国立職業リハビリテーションセンター職業訓練指導員から、 1990年に、短大(当時)の情報処理学科教員に転職した。全盲の障がい当事者として、視覚障がい者へ情報処理技術の指導や就職の支援を行うという意味では、同じ仕事の継続であったと言える。
現在私が所属する“障害者高等教育研究支援センター”は、在学生のために、教科書などの学習資料の保障、学内の情報アクセシビリティの確保、障がい補償に関する支援などを行っている。
最近では、他大学で学ぶ視覚・聴覚障がい学生に対する支援や、支援担当者への支援も、このセンターの重要な仕事になっている。そこでは、視覚障がい者向けの学習資料の制作や制作体制の整備を行っている。
また、2006年からは文部科学省の特別経費による視覚障がい者用学習資料整備プロジェクトの運営にも当たっており、それに多くの時間を費やしている。
これは、触覚や聴覚、ロービジョン(低視力)で利用できる学習資料が不足している現状の改善や、視覚障がい者が学習資料を円滑に利用する方法の整備を目指す取り組みである。学習資料の不足については、私自身がかつて多くを経験してきた。
私が盲学校に在学していた1960年代は、点字教科書がやっと一通り揃い始めていたが、科目によっては、点字教科書がなく、また、点訳された学習参考書は皆無と言えた。
そのような中、盲学校の先生方のご尽力により、ようやく点字受験を認められ、入学した大学の数学科では、学習資料の不足は、遥かに深刻であった。点訳された専門書などは全くなく、そのため、ちょうど始まったばかりの公共図書館での対面朗読を利用して、教科書を自身で点字化したり、数少なかった点訳者の中から、専門書の点字化を引き受けてくださる方をやっと見つけ出して、点字化をお願いしたりと、当時の視覚障がい学生としては当たり前の努力を私も強いられた。
このように、視覚障がい学生にとっては、教科書がないままでの履修や受講は日常的であり、学習を確実に進めることは難しく、十分な学業成果を得ることは容易ではなかった。
まだパソコンが世の中に登場する以前であり、点訳は主に点字盤、一部で点字タイプライタを使って行われていた時代のことである。
一方、現在の視覚障がい学生の学習環境は、当時とは大きく様変わりした。IT(情報技術)の普及や社会の仕組みの改善の結果である。
しかしながら、学習資料の利用に関する困難をはじめ、学業場面での障壁はまだまだ多い。それを少しでも解消することが、私たちセンターの役割であり、プロジェクトの目的でもある。
長岡 英司/ながおか ひでじ
1951年1月 | 東京都生まれ |
1963年12月 | 完全失明 |
1969年3月 | 東京教育大学教育学部附属盲学校高等部卒業 |
1970年4月 | 立教大学理学部数学科入学(点字受験) |
1977年3月 | 同大理学研究科修士課程修了 |
1977年4月 | キヤノン株式会社入社 |
1979年9月より | 国立職業リハビリテーションセンター職業訓練指導員 |
1990年4月より | 筑波技術短期大学情報処理学科助教授 |
2005年10月より | 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター教授 |
(現在に至る) |