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「架け橋」を目指して=心の耳で綴りたい

2006年11月17日掲載

四歳のころに光を失った私は「視覚障害者」と呼ばれている。それに間違いはないのだが、「障害」という言葉がどうも引っかかる。もう少しニュートラルな言葉はないものだろうか。

外資系通信社で英語のニュースを翻訳する仕事を得た後、こうしてエッセイを書く仕事にも恵まれた私は、まずこの問題に取り組むことにした。
というのは、執筆に入った直接のきっかけとなった「鳥が教えてくれた空」(NHK出版、集英社文庫、NHK学園「自分史文学賞」大賞受賞)の出版後、信じられないくらいたくさんの読者の方から感想や激励をいただいたからである。
ご子息が視力を失ったという母上は、遠距離電話でおいおい泣きながら窮状を話してくれた。ホームページにメールをくれた男性は、「昨日手術で視力を無くしました。でもあなたのお話を元にしたラジオドラマを聴いて、見えなくても生きていけそうだなと思いました」と書いておられた。そしてみなさん、「これからも勇気の出る本を書いてください」と必ず付け加えてくださるのである。

読者に勇気を出していただくには、障害などの困難とのうまい共存法を模索することが必要だろう。そう考えて、私はまず「視覚障害者」に代わる言葉を探した。本当は適切な大和言葉を作りたいのだが、当面"sceneless"(シーンレス)を使っている。これは私の造語で、「風景がない」という意味の英語のつもりである。見えないことを生物的な特色として受け入れ、生かしていこう。ならばこの状況を表すには、目の前に風景がないという事実だけを言えば良いのではないか。そんな意味を込めた。
しかし、シーンレスとは心の持ち様と訓練によって"sceneful"(シーンフル)、つまり景色で満たされることへの出発となり得るのだ。豊かな風景は、視覚に捕らわれず全身の感覚を駆使すれば、自由かつ無限に脳裏に見ることができる。そして実は、この楽しみは、視力の有無を問わず誰でも得られるものなのである。
最初、私はこのことを小鳥たちから教わった。彼らの声から眼前の景色や空の様子を耳で聞き取り、障害も含めた「特色」は、私たちの心次第でプラスにもマイナスにも作用すると実感したのだ。そして、その気持ちを人間界にも応用し、文章を通して障害者と健常者の架け橋になりたいと思った。
それには「心の耳」で聴き、「心の耳」に届くように書くことである。そんな思いで筆を執っている。

プロフィール

写真:三宮さん

三宮 麻由子/さんのみや まゆこ
エッセイスト

東京都生まれ。上智大学博士前期課程修了。フランス文学専攻。
第二回NHK学園自分史文学賞大賞、第49回日本エッセイストクラブ賞、第二回サフラン賞受賞。
近著:「時計を捨てよう」(大和出版)、「福耳落語」(NHK出版)

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